その55 イボイモリ観察紀行−8
Ikimono Dayori sono55
イボイモリ観察紀行 Page8

 両生類以外で楽しませてくれたのは、クロイワトカゲモドキです。
 クロイワトカゲモドキは、日本が誇るキョクトウトカゲモドキGoniurosaurus属の一種Goniurosaurus kuroiwaeで、5亜種に分けられています。
 沖縄島に生息しているのは、基亜種のクロイワトカゲモドキ(Goniurosaurus kuroiwae kuroiwae)です。
 5亜種のうち沖縄県には、4亜種が生息し、基亜種のクロイワトカゲモドキのほか、久米島にクメトカゲモドキ(Goniurosaurus kuroiwae yamashinae)、伊平屋島に(Goniurosaurus kuroiwae toyamai)、渡名喜島・渡嘉敷島・阿嘉島・伊江島にマダラトカゲモドキ(Goniurosaurus kuroiwae orientalis)が分布しています(オビトカゲモドキ Goniurosaurus kuroiwae splendensは鹿児島県徳之島に分布)。
 どの亜種も、完全な夜行性で、主に、湿潤な樹林内や沢周辺、石灰岩の洞穴などに生息し、昆虫やクモ類、多足類、陸生甲殻類などを捕食しています。
 危険を感じると尻尾を持ち上げて揺り動かして注意をそらします。
 尾は簡単に自切するようで、再生尾の個体を多く見かけます。
 クロイワトカゲモドキ(基亜種)は、背面の斑紋に地域変異があり、得に沖縄島の南部産の個体とヤンバルのような北部産では顕著な違いがあります。 少なくとも沖縄島南部の個体群と北部(ヤンバル)の個体群は別亜種程度の種分化が進んでいるのかもしれません。

クロイワトカゲモドキ(沖縄島北部産) クロイワトカゲモドキ(沖縄島北部産)
 
クロイワトカゲモドキ(沖縄島北部産)
クロイワトカゲモドキ(沖縄島南部産) マダラトカゲモドキ(渡嘉敷島産)
クロイワトカゲモドキ(沖縄島南部産)
マダラトカゲモドキ(渡嘉敷島産)
クメトカゲモドキ(久米島産) イヘヤトカゲモドキ(伊平屋島産)
クメトカゲモドキ(久米島産)
イヘヤトカゲモドキ(伊平屋島産)

 5亜種とも沖縄県・鹿児島県指定の天然記念物です。
 環境省版レッドデータブックのカテゴリーはイヘヤトカゲモドキとクメトカゲモドキが「絶滅危惧TA類」オビトカゲモドキとマダラトカゲモドキが「絶滅危惧TB類」クロイワトカゲモドキ(基亜種)が「絶滅危惧U類」で、爬虫類の中でも最も絶滅の危険性が高いと判断されています。
 ルビーのような瞳、原始的な風格を漂わせる斑紋、まさに、イボイモリやイシカワガエル同様に、南西諸島の奇跡、世界に誇る生きものたちです。
 参考に沖縄県に分布する3亜種の写真も載せておきましょう。
 イヘヤトカゲモドキの写真は、宮崎在住の友人Hさんと共に伊平屋島に渡り、ハブだらけの渓流で撮影した写真です。残念ながらその渓流はダム開発のために流域ごと消失しました。
 クメトカゲモドキやマダラトカゲモドキは妻と久米島や渡嘉敷島を訪れた時に撮影した写真なのですが、こちらも残念ながら、ダム開発等で生息環境の多くが消失しています。

 真夜中にも関わらず、姿を現してくれたのはリュウキュウヤマガメです。
 昼行性の傾向が強く、昼間薄暗い林内や渓流を歩いている時に見かけることが多くありますが、林道の側溝に落ちている個体を救ってやったことも多々あるため、早朝に林道に出てくる事も多いのでしょう。
 リュウキュウヤマガメは、沖縄島・渡嘉敷島・久米島の固有の陸亀で、国指定の天然記念物です。
 食性は、肉食傾向が強く、鋭いくちばしで陸貝を噛み砕いて食べているところや大きなミミズを食いちぎっているところを目撃した経験があります。

リュウキュウヤマガメ 林道の側溝を這い上がるリュウキュウヤマガメ
リュウキュウヤマガメ
林道の側溝を這い上がるリュウキュウヤマガメ

 カエルが多く姿を現すと、それを狙うヘビも多く見かけます。
 今晩一番多かったヘビはヒメハブです。
 ヒメハブは、奄美諸島と沖縄諸島(喜界島、沖永良部島、与論島、伊是名島、粟国島等の隆起珊瑚起源の島を除く)に分布するヤマハブ属の毒蛇です。
 山地から集落周辺まで様々な環境に生息し、湿潤地を好むため、特に渓流周辺や水田近くで見かけることが多いのですが、林道にもよく出てきています。
 夜行性で、待ち伏せしてカエルを中心に捕食します。 地元の言葉で「ニーブヤー(寝坊者)」と呼ばれるほど、行動は緩慢でおとなしいため危険なヘビではありませんが、知らずに踏みつけたりすると咬まれるため注意が必要です。

ヒメハブ ヒメハブ
ヒメハブ

 多くの生きものたちを観察すると、あっという間に時間がすぎてしまいます。
時計を見ると3:00を回っています。
 そろそろ、ホテルに帰ることにします。
 林道を抜け、県道2号に出たところで、車に轢かれたヘビを見つけました。
 大きさなどが気になったため、車を急停車して近寄ってみると、ヤンバルでは見かけることの少ないハブです。しかも、黄色素欠乏の「銀ハブ」です。生きた状態で観察できなかった事が残念です。
銀ハブ(ロードキル)
銀ハブ(ロードキル)

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文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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