その55 イボイモリ観察紀行−5
Ikimono Dayori sono55
イボイモリ観察紀行 Page5

 車を走らせて渓流と林道が併走している場所に向かいます。
 お目当ては、蝶々ではなくてカラスヤンマです。
 カラスヤンマは、主に山間の自然林に囲まれた渓流に生息するオニヤンマの仲間です。

カラスヤンマ♀  渓流や林道の上空をグライダーのように滑空し飛び交う様は、優雅で南国のイメージにぴったりです。
 沖縄島北部の特産種とされていますが、伊平屋島で複数の個体を見た事があります。
 なんとか写真撮影したいのですが、なかなか近くに止まってくれません。
 仕方がないので、車から捕虫網を取り出し、竿に装着し一振り。
 手に持って撮影です。ン〜ン・・・何時見てもかっこいいトンボだなー。

カラスヤンマ♀


 さて、陽射しも随分傾いてきました。そろそろ、沢沿いを離れて尾根道に向かうことにしましょう。
 お目当ては、スミナガシです。
 南西諸島のスミナガシは、さくちゃんが高校や大学生の時代、蝶々の採集のために頻繁に通い長期滞在していた頃は大珍品だった蝶々の一つです。
 それが、夕方尾根に集まりテリトリーを張るなどの習性がわかってから比較的採集しやすくなり、大珍品の座を失ってしまったのですが、ついついネットを振る手に力が入ってしまう蝶々なのです。

スミナガシ ツマムラサキマダラ♀
スミナガシ
ツマムラサキマダラ♀

 路傍に咲くアメリカセンダングサで吸蜜中のチョウは、ツマムラサキマダラです。
 ここチョウは、1992年ごろに沖縄諸島に侵入し発生を続けているチョウで、奄美諸島でも比較的普通に見る事ができるようになりました。
 スミナガシ以外で、夕方になると活発に活動する蝶々にアオバセセリオキナワビロードセセリなどの大型のセセリがいます。これらは早朝にも活発に活動するグループで、東南アジアにおいても、このグループを採集する時は、他の蝶々が活動する前の早朝を狙います。

イヌビワの葉裏に静止するアオバセセリ クロヨナに産卵中のオキナワビロードセセリ
イイヌビワの葉裏に静止するアオバセセリ
クロヨナに産卵中のオキナワビロードセセリ

 イジュの花の周りを飛び交っているのはキオビエダシャクです。
  以前、奄美大島で民家のイヌマキの生垣で大発生しているところに遭遇した事があるのですが、撮影したフィルムを無くしてしまうと言う苦い経験があります。これも少し採集しておく事にします。
キオビエダシャク
キオビエダシャク

 さて、昆虫の採集と観察はこれぐらいにして、昨夜の両生爬虫類観察時に気になった奥川源流部の伐採現場に行ってみる事にします。
 まずは、上流部が見渡せる尾根線に車を停めて、伐採状況を確認する事にします。

皆伐の様子  すると、驚くべき光景が目に入りました。
 尾根を境にして谷側が完全に伐採されています。 ものすごい面積の皆伐です。

 想像を絶する自然破壊です。
 谷側から源流部を見上げても状況は同じです。
 奥川流域は、ヤンバルの中でも生物の多様性の高い場所で、多くの希少動植物が生息・生育しています。
 この皆伐で何千・何万匹・・・いえ何億もの生きもの命や希少で固有の生態系が失われてしまいます。

 沖縄科学技術大学院大学予定地の頁でも記述しましたが、生きものの生存にとって、生息・生育環境が消失したり、質的に悪化することが一番大きなダメージになるのです。
 まさにこの現場では、開発により希少な生き物や生態系を育む生息生育基盤が消失し、目に見えない大量虐殺が行なわれているのです。
 皆伐を免れた隣接する樹林は、恐らく微気象の変化により枯損することでしょう。
 奥川の中・下流部には土砂が流れ込み、渓流や汽水域に生息する多くの水生生物に影響が出る事が想定されます。

 林道の始点にヤンバルテナガコガネのイラストと共に「とらないで」という横断幕が設置されています。 でも、私はこう言いかえたい。
 「開発によってヤンバルテナガコガネや希少な動植物から生息・生育環境をとらないで!」って。
 後日、この現場の事を、学識経験者にお伺いしたところ、違法伐採行為とのこと。
 自治体の、公正で見識ある対応を望みたいと思っています。
皆伐の様子
立ち枯れ
看板

 昼間の予定はこれで完了。雨も降り始めたので、一度ホテルに戻って夜間観察に備える事にします。

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文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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