その34 東南アジア珍奇植物の旅(西スマトラ編)-3
Ikimono Dayori sono34

東南アジア珍奇植物の旅(西スマトラ編) Page3

 夜明けと共に起き出してホテルの周辺を散策します。
 お目当ては、ホテルとその周辺の街灯に集まった昆虫を採集するためです。夜間雨が降っていたため成果は今一つですが、いくつかのクワガタムシやゾウムシを採集することが出来ました。
朝食をすませてバタン・パルプーのラフレシア保護区に向かいます。
 駐車場に車を止めて保護区に向けて歩き始めると、自称ガイドだという沢山の若者や子供達が何処からともなく集まってきます。全員を連れて歩くわけにはいきません。ボス的な青年とその手下2人を同行させることにして、残りの子供達にはお菓子などを渡して引き上げてもらうことにしました。

ラフレシア保護区のゲート 原生林
ラフレシア保護区のゲート
原生林

 山際の道を進むと谷間にラフレシア保護区の看板があり、そこから先はラフレシアの生育していそうな鬱蒼とした熱帯多雨林が続いています。ラフレシアの寄主であるミツバビンボウカズラ属の植物Tetrastigma sp)も沢山地上にツルを延ばしています。
 樹冠から、テナガザルが興味深く我々をのぞき込んでいます。雨でぬかるんだ山道に足を取られながら進んでいきます。100%近い空中湿度であっという間に体中が汗だらけです。
ラフレシアの寄主ミツバビンボウカズラ属のツル
ラフレシアの寄主ミツバビンボウカズラ属のツル
ラフレシアの寄主ミツバビンボウカズラ属のツル

 1時間近く歩いたでしょうか。卵形でちょっと変わったラフレシア科の蕾を見つけました。小型のラフレシア科の仲間のキクザキラフレシアRbizantbes zippelii)です。

キクザキラフレシア(Rbizantbes zippelii)の蕾 蕾と咲き終わった花  キクザキラフレシアは新種記載後、発見例が4例と非常に少なかった種で、日本人による北ボルネオ合同踏査隊の手によって35年ぶりに発見された珍しいラフレシアです。ラフレシアの仲間は通常5枚の花弁を持っていますが、キクザキラフレシアは15枚の花弁を有する特異なラフレシア(ラフレシア科リザンテス属)です。
 近くには花期が終わり腐りかけたものも見つかりますが、残念ながら状態よい花は見つかりません。とりあえずこれらを撮影して次に進みます。
咲き終わった花
   

 30分ぐらい歩いたでしょうか。薄暗い斜面にはミツバビンボウウツボカズラのツルが地上をはっていて、そのツルに小さなコブや小さな蕾が付いています。注意深く周辺を探すとピンク色の大型キャベツを発見。そう、世界最大の花、ラフレシア アルノルディイの蕾に間違いありません。
 ラフレシア アルノルディイ(Rafflesia arnoldi)は、1817年にイギリスのラッフルズ卿夫妻とアーノルド博士がスマトラを探検旅行をしているときに発見し、その時に作成された詳しい記録と詳細な写生図をもとに専門家によって新種記載された種です。学名は第一発見者である2人の名前に因んで命名されました。ちなみに現地名はスケディ(おばけ)といいます。
 花の大きさは直径1.0m以上、その重さは20kg近くになります。蕾は小さなコブの状態から巨大ピンクキャベツになるまでに9カ月以上、開花が始まって完全に開花するまでに2日以上もかかります。しかし、開花後は徐々に腐敗し、花期は3日程度しかありません。
 さて、ザックからカメラを取り出して写真撮影です。レンズが曇ってなかなか上手く撮影できません。ふと気付くと足下に腐った花も見つけ、これも撮影します。

巨大ピンクキャベツ アルノルディイの蕾
腐った花 腐り始めたばかりで原形をとどめている花
蕾と腐った花
巨大ピンクキャベツ アルノルディイの蕾

 その後は、蕾や腐った花は見付かりますが状態の良い花は見付かりません。まあ、3日程度で腐ってしまうため仕方がないのですが・・・
 山の中を探し歩いてやっとの事で、色は茶色くなっていますが原型をとどめている花を見つけました。さすがにラフレシアの中でも最大の花を咲かせるアルノルディイ!!迫力があります。
 葉もなければ茎もないし。生殖器官である1m以上の巨大な花だけが寄主のツルの上にどかっと乗っています。それだけでも寄生植物の中でも奇妙で特殊な植物であることが伺えます。
 花に顔を近づけて臭いを嗅いでみます。う・・・ん・・・噂通り。動物の肉が腐敗したようないやな臭いがします。花の中には、この臭いに集まったハエが沢山たかっています。
 熱帯多雨林の薄暗い林床に生育する植物の中には、ラフレシアの様に腐敗臭を出して、ハエや腐肉を食べる甲虫を集め、これらの昆虫によって受精を行う植物は少なくありません。
 雨足が強くなってきたので、このラフレシアを撮影して山を下りることにします。

水牛を使っての農耕  昼食代わりにバナナを食べて、シアノック渓谷に立ち寄ります。この渓谷は、インドネシアのグランドキャニオンとも呼ばれている景勝地です。あまり期待はしていなかったのですが、直立の崖を背景にして、濃い緑と棚田が続くとても綺麗なところでした。深い霧が山から下りてくると幻想的ですらあります。田植えのシーズンらしく水牛を使って農作業をしている風景もあちらこちらで見られました。ドリアンDurio sp)やマンゴーMangifera sp)などの木にも沢山の実がなっていました。
水牛を使っての農耕(拡大写真あり)

深い霧が下りてくる断崖 シアノック渓谷 果物の王様ドリアン
深い霧が下りてくる断崖 マンゴー
   
 今日の行程はこれで終了です。明日は、いよいよサゴ山に向かいます。


文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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