その41 ブチサンショウウオ観察日記(広島県冠山)−3
Ikimono Dayori sono41

ブチサンショウウオ観察日記(広島県冠山) Page3

 次の場所は、沢岸近くに石が積み重なっていて、石の下から湧水が流れ出ています。ブチサンショウウオはこの様な場所に好んで産卵します。
 バールを使って、まずは大きな石をひっくり返します。次に手鍬を使って、湧水が流れ出る崖の穴を慎重に掘っていきます。
 少し、掘り下げたところで、穴を覗き込むと1対の卵嚢と卵嚢を包むようにしている成体が見えました。近くの隙間に潜む2匹の成体も確認できます。
 昼間の観察なので、ストロボを持参しなかったことが悔やまれます。
 卵嚢に巻き付いている成体は、指でつついても逃げようとしません。まるで卵を守っているようです。
卵嚢に巻き付くようにしていた成体
卵嚢に巻き付くようにしていた成体

 観察を続けながら最上流部まできました。現時点でブチサンショウウオの成体20匹強と卵嚢8対を観察しています。
 最上流部にも積み重なった石の間から湧水が湧き出ている場所があります。
 この場所を詳細に調査して今日の観察を終えることにします。
 まずは大きな石をバールでひっくり返します。次に手鍬を使って小さな石や砂利を退けていきます。
 それにしても流水産卵性のサンショウウオを観察するのは体力勝負です。

ハコネサンショウウオ成体 ハコネサンショウウオ成体  少し掘り進むと複数のサンショウウオが目に入りました。背中に鮮やかな朱色の帯状の斑紋があるハコネサンショウウオの成体です。
 幼生は無愛想な顔をしていますが、成体は目が飛び出ていて、実に可愛い顔をしています。
ハコネサンショウウオ成体

 ハコネサンショウウオは、本州、四国に生息し、山地渓流に最も適応したサンショウウオで、日本に生息するサンショウウオの中で、唯一肺を持たず、皮膚呼吸のみで生きています。
 体色や斑紋は地域変異や個体変異が大きいのですが、西日本の個体は、背中の斑紋が鮮やかな朱色の帯になる個体が多い傾向があり、関西型と呼ばれています。
 この場所では、ブチサンショウウオの成体2匹と卵嚢1対、それとハコネサンショウウオの成体3匹を観察しました。
 ハコネサンショウウオの成体は、繁殖のために集まってきているのかもしれません。自然の状態でハコネサンショウウオの卵嚢を観察できるのは大変稀なので、この場で産卵してくれることを期待して、石を元どおりに直して、全ての個体をリリースしました。

 これで観察終了です。
 頭に巻いていた日本手拭いをはずし、渓流で汗と泥を落とします。長靴からトレッキングシューズに履き替えて、ザックに荷物を詰め直し、登山道をゆっくり下山するのでした。
 あー疲れた。渓流産卵性サンショウウオの観察は、凄く楽しいし、気持ちがいいのだけど・・・ほんとしんどいわ!!

 さて、今回の調査では、実質5時間でブチサンショウウオの成体20匹強、卵嚢9対、ハコネサンショウウオの成体3匹、越冬幼生多数を観察することができました。
 観察した上記の個体は、ブチサンショウウオのみ少数の成体と卵嚢を採集し、残り個体は全てリリースしました。
 来年も出逢えることに期待して・・・
 また、観察したブチサンショウウオの卵嚢9対の1房内の卵数は、最少が4卵、最多が16卵、平均9卵であったことを付け加えておきます。
 今回の生きもの便りはおしまいです。
 春のサンショウウオ観察は、次回のハコネサンショウウオまで続きます。

 
5月16日
さくちゃんこと佐久間聡


文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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