その22 春の生きもの観察日記−1
さくちゃんの生きもの便り(その22) 春の生きもの観察日記−1

※すべて拡大写真ありマス

 21世紀を迎えて半年が過ぎようとしています。
 仕事がら、年末から年度末にかけては大変忙しく、なかなか生きもの便りを書く時間がとれません。前年度の仕事がやっと目処が立ったため春先から撮り貯めていた写真を整理し、生きもの便りを書く気力が沸いてきました。
 今回の生きもの便りは、3月から5月中旬までに観察した生きものの話しをしましょう。


3月10日 アズマヒキガエルの観察日記

 我が家の近くには掃部山公園と野毛山公園という大きな2つの公園があります。それぞれの公園は自然地形や植生が残り、小さいながらも池があります。
 ただしその池は、自然の池ではなくて公園の修景施設として整備されたものなのですが、3月になると毎年多くのアズマヒキガエルが繁殖のために集まってきます。

 ヒキガエルの仲間の繁殖は、繁殖場に多くの成体が集まって雌を奪い合う、いわゆる「蛙(カワズ)合戦」を繰り広げることが有名です。なにしろ大きな体のヒキガエルか見境なく雌を奪い合う姿は、滑稽なのですが迫力があるし、子孫を残そうとする本能に圧倒させられます。
 3月9日金曜日の夜、いつもの公園の池にヒキガエルが集まっていることを確認し、翌日の早朝に子供達を連れてアズマヒキガエルのカワズ合戦を見に行きました。
 まず最初に見付けたのは池の畔や水中で抱接中の複数の成体(親)です。死んだ雌にまで抱接しているあわてん坊の雄もいます。

アズマヒキガエルの抱接
アズマヒキガエルの抱接
死んだ雌に抱接する雄

 抱接とは、カエルの仲間の生殖法です。カエルの仲間の生殖の方法は、雌の背中に雄がのっかって、雌が産卵すると同時に雄が射精し、受精が完了します。
 抱接中のペアに忍び寄る別の雄の姿もあります。

 
 
写真
上:

抱接している雌雄にちょっかいを出す雄

左:

雌の脇腹を強く抱え込んで包摂する

右:

繁殖期は水中生活に適応してぶよぶよの体になる


 産卵中の成体もいました。ちょっと可哀想だったのですが、たも網ですくって写真を撮りました。それは、カエルの卵塊やサンショウウオの卵嚢の写真を生きもの便りに載せると「小さい体なのにどうして大きな卵塊や卵嚢を産むことが出来るのですか?」という質問を必ずもらうからです。その質問に答えるためにどうしても写真を撮りたかったのです。


産卵中の雌(ひも状の卵塊が2本出ている様子)
水を吸収し、少し膨らんだ卵塊
水を吸収しホース状になった卵塊

 答えは写真を見て頂くと解ると思います。通常アズマヒキガエルは10000個近い卵を産みますが、最初からホース状の卵塊を産むのではなく、粘膜に包まれたひも状で産卵し、それが水を含んでホース状に膨張するのです。以前紹介したトウキョウサンショウウオ等も同様です。
 それと、写真をもう一度よく見て下さい。総排泄孔からひも状の卵塊が2本出ているのが解りますか?
これには僕も衝撃を受けました。そして閃きました。
 いつも池の畔で水中に産卵している姿しか見ていなかったため気付かなかったのですが、たぶん多くのカエル達もサンショウウオと同じように1対の状態で産卵しているのではないのかと。それが、卵塊の形状で産卵後は一塊りに見えるのではないかと・・・・
 「そんなの常識だよ」とか「間違っているよ」とか言われるかもしれません。でもいいんです。この様な、ちっぽけな生きものの観察でも、自分なりの知的好奇心を持ち、色々なことを想像・仮説し、図書館等で文献を調べるという環境学習につながっていくんです。この日は色々な事に納得し、妙に嬉しい気持ちになった一日でした。



 アズマヒキガエルのオタマジャクシ

 2週間後、我が家で繁殖したイモリ類の餌(ミジンコ)を採集するために池に行くと、早く孵化したオタマジャクシが元気良く泳ぐ姿を見かけました。今年も沢山のヒキガエルが上陸しそうです。

 
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文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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