Ikimono Dayori sono82
ブチサンショウウオ観察日記−2
1時間ぐらい歩いたところで、以前訪れたことがある支沢に到着しました。
この支沢は、沢巾が狭く水量も少ないので、いかにもブチサンショウウオが繁殖に訪れそうな環境です。
ブチサンショウウオがたくさん生息していた支沢
この沢に入って調査することにしましょう。
天気も良く、スギタニルリシジミが吸水のために集まっています。
吸水中のスギタニルリシジミ
スギタニルリシジミは、主に山地の渓流沿いに生息し、1年に1回春季に発生する小さなシジミチョウの仲間です。
荷物を置き支沢の下流側から、可能性のありそうな石をバールを使ってひっくり返していきます。
調査を始めてすぐに石の裏に産み付けられたたくさんの卵嚢と成体を見つけました。
成体は一時捕獲して雌雄と個体数を調べます。この石では6対(12房)の卵嚢と成体8匹を確認しました。出だしは上々です。
その後も、5対(10房)、2対(4房)・・・・・と、たくさんの卵嚢と20匹以上の成体を確認しました。
ブチサンショウウオ(Hynobius naevius)の卵嚢
ブチサンショウウオは、本州の近畿以西、四国、九州に分布して、西日本を代表する流水産卵性のサンショウウオとして知られていましたが、研究が進み2008年に中国地方、北西九州に分布するブチサンショウウオ(Hynobius naevius)と本州中部より四国、九州に生息するコガタブチサンショウウオ(Hynobius yatsui)に分類されました。
地域変異や個体変異が大きく興味深いサンショウウオです。
ブチサンショウウオ(Hynobius naevius)成体
遅い昼食を取った後で、一時捕獲した成体の写真を撮影し、元の場所にリリースします。
そろそろハコネサンショウウオ属(Onychodactylus)の幼生を観察しながら下山することにしましょう。
ハコネサンショウウオ(Onychodactylus japonicus)は、近年の分子系統学的解析から複数の隠蔽種が含まれていていることが分かり、2012年に東北地方北部の個体群がキタオウシュウサンショウウオ(Onychodactylus nipponoborealis)に、2013年に筑波山系の個体群がツクバハコネサンショウウオ(Onychodactylus tsukubaensis)に、四国と中国山地の一部の個体群がシコクハコネサンショウウオ(Onychodactylus kinneburi)と、それぞれが独立種として記載されました。
冠山は、ハコネサンショウウオとシコクハコメサンショウウオが同所的に生息しており、両種の分布のほぼ西限に位置します。
流水性サンショウウオの幼生は、流水の中でも比較的流れの緩やかな水際や水深の浅いところにある石の下に多く潜んでいます。
石を片手でゆっくり持ち上げながら幼生を探します。
3cm位の幼生から上陸直前の8cm位の幼生が次々と現れます。
ハコネサンショウウオの幼生は、孵化してから成長し変態上陸するまでに3年近くかかるため、3段階の大きさの幼生が見られます。
背面の模様は個体変異が大きく一見別種と見間違えるような幼生もいるのですが、頭部が扁平で角張っていること、指先に黒い爪が生えていることで区別がつきます。
ハコネサンショウウオ属(Onychodactylus)の幼生
時計を見ると15時を過ぎています。
心地よい疲労感に抱かれて、「神々が宿る島」宮島に帰ることにしましょう。
2014年1月20日 さくちゃんこと佐久間聡