さくちゃんの生きもの便り

Ikimono Dayori sono68

クロコノマチョウの記憶

皆さんは、クロコノマチョウ(Melanitis phedima oitensis)というチョウを知っていますか?

クロコノマチョウは、ジャノメチョウ科のなかでは大型のチョウなのですが、翅の色が表面裏面共に茶褐色から黒褐色で、しかも雑木林等の薄暗い林床に止まって休んでいることが多いため、目立たないチョウです。

また、主な活動時間が早朝と夕方の薄暗い時間帯のため、チョウを見慣れていない人が本種を見つけても、ほとんどの人は蛾だと思うことでしょう。

日本国内では、本州、四国、九州、南西諸島で記録がありますが、北方と南方に分布拡大を進行している種です。

 

夏型の成虫♀(表面)

夏型の成虫♀(表面)

秋型の成虫♀(表面)

秋型の成虫♀(表面)


 

私が初めてクロコノマチョウに出会ったのは、チョウ類の採集を始めた中学1年生の秋のことです。

当時住んでいた故郷の宮島(広島県廿日市市宮島町)の家の近所で、裸電球の周りを飛んでいた大きな雌を採集したのが始めてです。

電灯の周りを不規則に飛ぶ姿、素手で採集した時の感動、電灯に集まるチョウもいるのだと言う驚き等、その記憶は40年経った今でも鮮明に思い出すことが出来ます。

その後は、夕暮時に飛び交う姿や、カキの実で吸汁する個体を毎年のように見ることが出来ましたが、決して個体数の多いチョウではありませんでした。

中学三年生の夏休みに始めて八重山群島の石垣島と西表島に遠征し、南西諸島の魅力に取り付かれた私は、高校・大学時代は南西諸島の各地に出かけてはチョウを採集していました。

大学1年の夏、沖縄本島北部の名護をベースにしてチョウ類の採集を行っていた時に、本部半島の伊豆味で、近似種のウスイロコノマチョウに混じってクロコノマチョウを採集しました。

その当時、南西諸島におけるクロコノマチョウの記録は数例しかなかったのですが、2種とも目的のチョウではなかったのであまり感激はしませんでした。

 

大学時代は、東京に住んでいました。

クロコムラサキ(コムラサキ黒化型)とミヤマシジミの採集に訪れた静岡県の大井川の河川敷で、クロコノマチョウの多さにびっくりしたこともありました。

それは今までの経験で、クロコノマチョウは広く分布するものの生息密度は高くないという印象を持っていたからです。

結婚して横浜に住み着いて今日に至り、毎年近郊の里山でクロコノマチョウと出会っていますが、静岡県の大井川河川敷周辺のように多くの個体を見たことはありませんでした。

「西多摩自然フォーラム」の定例調査会を行っている横沢入(東京都あきる野市横沢入)においても、毎年クロコノマチョウに出会っていますが、多くの個体を見たことはありませんでした。

2009年 暖冬の影響で、一度も積雪の無いまま春を迎えました。

例年、横沢入で越冬成虫を見かけることは無いのですが、今年は普通に越冬成虫が観察でき、大発生を予感させる状況になりました。

夏を向かえ、樹液に集まる昆虫を観察していると、夏型の成虫が目に付くようになり、多い日には10匹以上観察できるようになりました。

また、食草のススキ、ヨシ、ツルヨシ、クサヨシの葉を捜すと、卵や幼虫を簡単に見つけることができ、稀に蛹も観察できるまでになりました(横沢にはジュズダマは生育していません)。

9月末からは、大きく前翅が嘴状に突き出した秋型が観察できるようになり、徐々に数を増やしています。

 

ここでクロコノマチョウの豆知識

 

( 生態 )

通常年3回発生し、6月〜11月に姿を見かけます。

成虫は主に林内の林床付近や周辺の薄暗い地域に生息し、昼間は活動せず、多くの個体は日没前後にゆるやかに飛び回ります。

成虫は、汚物や腐果、樹液に飛来し吸汁します。

越冬態は成虫で、秋に現れた成虫がそのまま越冬し、越冬成虫は翌春の4〜6月頃まで見ることができます。


夏型の成虫

夏型の成虫

秋型の成虫

秋型の成虫



食草は全てのイネ科植物です。

各地で最もよく利用しているのはススキ、ジュズダマ、ヨシ、ツルヨシ、クサヨシ等で、一般的に成虫が葉裏に止まって産卵できるような比較的大きな葉を有する種が好まれます。

このほかに、アブラススキ、チガヤ、メヒシバ、チジミザサ、栽培種のトウモロコシ、サトウモロコシ、アワなども食べます。

 

ススキを食べる幼虫 ヨシを食べる幼虫 ツルヨシを食べる幼虫
ススキを食べる幼虫 ヨシを食べる幼虫 ツルヨシを食べる幼虫

 

アトボシアオゴミムシの幼虫に捕食されるクロコノマチョウの幼虫
アトボシアオゴミムシの幼虫に捕食される
クロコノマチョウの幼虫
( 天敵 )

卵には卵寄生蜂がつきます。

幼虫をシリアゲが襲ったという報告もあるようですが、横沢入では幼虫をアトボシアオゴミムシの幼虫が捕食しているところを観察しました。

 

( 卵 )

食草の葉裏に1〜3列、平面に並べて産付されます。

卵はほぼ球形、半透明で青緑を帯び、光沢があります。

ヨシに産卵された孵化直前の卵 ススキに産卵された卵
ヨシに産卵された孵化直前の卵 ススキに産卵された卵
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文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)

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