その52 ブチサンショウウオ観察日記−2
Ikimono Dayori sono52
ブチサンショウウオ観察日記 Page2

 登山道は、本流の沢と併走するように緩やかに上って行きます。
 この沢にはハコネサンショウウオの幼生がたくさん生息しています。
 ミトコンドリアDNA解析用のサンプリングを同好の友人に頼まれていたので、寄り道をすることにします。
 流水性のサンショウウオの幼生は、流水の中でも比較的流れの緩やかな水際や水深の浅いところにある石の下に多く潜んでいます。
 石を片手でゆっくり持ち上げながら幼生を探します。
 3cm位の幼生から上陸直前の8cm位の幼生が次々と現れます。
 ハコネサンショウウオの幼生は、孵化してから成長し上陸するまでに3年近くかかるため、3段階の大きさの幼生が見られます。
ハコネサンショウウオの幼生が生息する沢
ハコネサンショウウオの幼生が生息する沢

 背面の模様は個体変異が大きく別種と見間違えるような幼生もいるのですが、頭部が扁平で角張っていること、指先に黒い爪が生えていることで区別がつきます。
 今年上陸すると思われる大きな個体を3匹採集し、尻尾の先を3mmぐらいカットして専用液の入ったカプセルに入れます。
 冠山の個体群は、ハコネサンショウウオの分布のほぼ西限に位置するので貴重なサンプルになるはずです。
 尻尾は比較的早く再生するので幼生のダメージは少ないのですが、やっぱりかわいそうです。うまく成体になってくれることを願ってリリースします。

ハコネサンショウウオ(幼生) ハコネサンショウウオ(幼生)
ハコネサンショウウオ(幼生)

 さて、幼生観察はこれぐらいにして、登山道にもどり標高をかせぎながら枝沢を探します。
 1時間ぐらい歩いたところで、対岸に今まで入ったことのない枝沢を見つけました。
 この枝沢は、沢巾が狭く水量も少ないので、いかのもブチサンショウウオが繁殖のために訪れそうな環境なのですが、明るすぎるのが気になります。
 まあいっかー
 ここに入って調査することにしましょう。
 下流側から、可能性のありそうな石をバールを使ってひっくり返していきます。
 調査を始めて5分ぐらい経った頃でしょうか。
大きな石をひっくり返すとブチサンショウウオがニョロットあらわれました。
 ザックからカメラを取り出し、水が澄むのを待って写真撮影です。
ブチサンショウウオとハコネサンショウウオが混生する沢
ブチサンショウウオとハコネサンショウウオが混生する沢

ブチサンショウウオ(成体)
ブチサンショウウオ(成体)
ブチサンショウウオ(成体)
ブチサンショウウオ(成体)

 銀色の雲状紋が適度に発達して綺麗です。
 ブチサンショウウオは、本州の近畿以西、四国、九州に分布して、西日本を代表する流水産卵性のサンショウウオです。地域変異や個体変異が大きく、将来少なくとも3種に別れる可能性がある興味深いサンショウウオです。
 中でも中国山地の個体群は、大きくて綺麗なのでさくちゃんのお気に入りです。
 繁殖期には複数の個体が集まっていることが多いため、引き続き隣の石を慎重にはぐります・・・が・・・・いません。ではその隣を・・・・でもいません。えーいっ・・・ではその隣・・・・やっぱりいません。ガックリ(涙)
 いない・いない・いない・・・あ〜やっぱ、繁殖期にはまだ早すぎるのねん。
 これは効率が悪いぞー。しゃーない・・・覚悟を決めて可能性の高い石を片っ端からひっくり返すこと2時間。結局雄ばっかり9匹の成体を観察しました。
 雌はまだ沢に来ていないようです。
 もうやーめた。
 腰も相当痛くなってきたため途中を飛ばし、最上流部まで移動して遅い昼食タイムです。
 水分を補給しバナナと食べて一息つきます。
 新緑にはちょっと早いのですが、この時期の沢歩きは実に気持ちがいいです。
 さーてっと・・・最後の一がんばりです。
 川岸の座ってバナナを食べていた大きな石からひっくり返します。
 おっとっと・・・なんかおったどー。
 なんじゃこりゃー・・・・・ええ〜い・・・・なんかとったどー。
 な〜んて 大げさな生きものではなくて、ハコネサンショウウオの成体です。
 ザックからカメラを取り出して写真撮影の開始です。
 模様の綺麗な典型的な西日本タイプの個体です。幼生は無愛想な顔をしていますが、成体は目が飛び出ていて、実にかわいい顔をしています。

ハコネサンショウウオ(成体)
ハコネサンショウウオ(成体)
ハコネサンショウウオ(成体)
 
さーって、そろそろ時間です。
 ブチサンショウウオの繁殖がまだ始まっていなかったので、成体の雌や卵嚢は観察できなかったのですが、楽しい一時を過ごすことができた一日でした
 
4月10日 さくちゃんこと佐久間聡
 

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文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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