その24 春の生きもの観察日記(カスミサンショウウオ調査)-1
さくちゃんの生きもの便り(その24)
春の生きもの観察日記(カスミサンショウウオ調査)−1

 6月上旬、平地では新緑も色濃くなり、初夏の様相を示す中、仕事で中国山地の中央部、広島県と島根県との県境付近にカスミサンショウウオの生息確認調査に出かけました。
 この調査は、数年前から行っている中国地方の動植物生息・生育確認調査の一環として行うもので、それぞれの調査対象種に対して調査適期を設定し調査を行っているものです。
 実は、カスミサンショウウオ調査は、今年3回目の調査なのですが、過去の2回は、調査場所が異なるのですが、生息を確認することが出来なかった因縁の調査なのです。むろん調査結果として、生息が確認できなかった事も重要な調査結果なのですが、やっぱり調査する者にとっては見付けたいものなのです。

※すべて拡大写真ありマス


カスミサンショウウオが繁殖する
圃場整備が行われていない水田
 

 今度こそはと言う思いで、羽田発、朝一番の飛行機で広島空港に到着。空港で、この調査に一貫して協力していただいているF社のMさんとNさんと待ち合わせです。
 Mさんは、個人的に広島県のダルマガエルの調査・研究を行っていて、「僕の人生は、ダルマガエルが導いてくれている」と熱く語ってくれます。ちょっと誇張しすぎてMさんに叱られるかもしれませんが・・・でも顔や形態までダルマガエルに似てきていると思うのはきっと僕だけではないはずです。沖縄北部の山原の森に初めて入って、いきなりイシカワガエルを見付けてしまう実力と運を持っている人でもあります。
 Nさんは若手バリバリのゲンゴロウ屋さんで、ゲンゴロウの特に幼虫に関しては日本で5本の指に入るぐらいの実力の持ち主です。知識といい行動力といい、将来有望な虫屋さんなのです。水生昆虫の知識に乏しい僕としては、内心、末永く師匠として教えを請おうと企んでいるのでした。そう言えばNさんの顔や仕草もゲンゴロウ的と言えそうです。
 ペットは飼い主に似、飼い主はペットに似ると言いますが、かくいう私は、元来チョウ屋ですから、チョウの様に可憐で美しくと言いたいところなのですが、歳を追う毎に肥大成長を続け立派なガに変態しつつあるのでした。
 話しが随分横道に逸れてしまいましたが、仕事とはいえ、同好者と生きものの話しをしながらフィールドワークを行うのは楽しい一時です。広島の両生類の話しや南西諸島のゲンゴロウの採集談を聞いてるうちに調査地に到着しました。


 調査は広島県北部の標高の低い場所からスタートです。
 繁殖場所になりそうな湿地や圃場整備がされていない水田を卵嚢や幼生を探してタモ網を入れますが見つかるのはニホンイモリニホンアカガエルばかりです。ニホンアカガエルは以前生きもの便りで紹介したヤマアカガエルによく似たアカガエルの仲間ですが、背中の両脇の盛り上がった線(背側線隆条)が鼓膜の所で外側に曲がらないで直線的になることで区別がつきます。


ニホンイモリ
ニホンイモリ腹部
ニホンアカガエル

 水が張られ田植えが終わった水田には、沢山のトノサマガエルが見られます。このカエルは昔から最も人に親しまれ、有名なカエルなのですが、日本のカエルの中でただ1種、トノサマガエルだけが雄と雌の体色が異なっていることを知っている人は少ないと思います。

トノサマガエル♂
トノサマガエル♀
トウキョウダルマガエル♀

 広島にはトノサマガエルによく似たダルマガエル(Mさんが調査・研究しているカエル)というカエルが局所的に生息しています。また、関東平野から仙台平野にかけて一般的にトノサマガエルと言われているものは、全てトウキョウダルマガエルというカエルです。トノサマガエルと比べると短足でずんぐりむっくりな体型のため区別できます。

 水田のカエル達を狙って、ヤマカガシニホンマムシも集まってきていました。
 徐々に標高の高い場所に調査場所を移動して調査を進めます。ヨシが生い茂る湿地の片隅でニホンヒキガエルのオタマジャクシを見付けました。このカエルは「生きもの便りその1や22」で紹介したアズマヒキガエルに似ていますが、本州の西部、四国、九州に分布しているものは全てニホンヒキガエルです。アズマヒキガエルより鼓膜が小さいので区別できます。僕の実家(世界遺産の厳島神社で有名な宮島)の裏庭に長く住み着いていたので愛着のあるカエルなのですが、最近は見かけることが少なくなってきました。僕が小さい頃は「どんびき」と言っていました。


ヤマカガシ
ニホンマムシ
ニホンヒキガエルのオタマジャクシ


文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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