さくちゃんの生きもの便り(その17) 春の沖縄(久米島)生きもの紀行−1

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 5月12日から3日間、沖縄本島の西に位置する久米島に行って来ました。去年の秋に引き続きアシスタント役は妻です。
 毎度の事ではあるのですが、出発の10日ぐらい前から長期天気予報とにらめっこしながら、天候や気温を予想します。梅雨入りしてもいい時期だから、仕方ないことではあるのですが、天候は雨模様、気温は最低気温は20℃と東京より高いものの、最高気温は東京なみ。まあ、しゃーないかーとあきらめ気分だったのですが、出発3日前から天気予報が雨から曇り、曇りから晴れと好転し、出発時には天候の心配は何一つもない状態になっていました。
 去年の2回の沖縄での経験を踏まえて、妻は名アシスタントであると共に、完全なる晴れ女を実証したのでした。

 多くの方は、久米島というと「美しい海岸線の続く海洋リゾートの小さな島」という印象を持たれると思いますが、この島には、日本や世界でここにしか生息していない生きものが沢山棲んでいるのです。
 今回の生きもの便りは、久米島で出会った生きものの内、これまで紹介できなかった生きものを中心にお話ししましょう。


  5月12日

 前回同様、「パパとママは仕事で出張に行くのだから」と言って、子供達を妻の実家に預け、相変わらずの早朝出発です。
 1便で羽田を発って、9時過ぎに那覇に到着。飛行機を乗り継いで11時過ぎに久米島空港に降り立ちました。空港で車のレンタルを済ませて、島の北部に位置する宇江城岳と南部に位置する島尻の2箇所に夜間調査の下見を兼ねて車を走らせます。出発前に同好の友人から、島の情報を教えてもらい、生きものを観察する場所を、原生林の残るこの2箇所に絞り込んでいました。
 最初に向かったのは、第一本命の宇江城岳です。山頂の自衛隊施設までいっきに車で登り、ゆっくり下りながら森林や地形の様子を見て降りていきます。
 途中の林道で立ち寄り、昼間の生きもの観察です。水のかれた沢で「沖縄本島だったらイボイモリがいそうだなー」と言いながら石や倒木をひっくり返していきます。最初に出てきたのは何と20cmはあると思われるオオムカデです。このムカデは、日本で一番大きくなるムカデです。次に出てきたのは、久米島だけに生息しているクメジマミナミサワガニです。この個体は産卵前の雌で、沢山の卵を抱えていました。


オオムカデの亜種
卵を抱えたクメジマミナミサワガニ
クメジマミナミサワガニ

 何時もお馴染みのオキナワキノボリトカゲも姿を見せてくれました。落ち葉の下で素早く走る小さなトカゲも見つけました。ヘリグロヒメトカゲです。このトカゲは、全長が10cm内外の小さなトカゲで、林内の落ち葉の下に生息しているため、見かける割にはシャッターチャンスの少ないトカゲです。主に朝や夕方に活動しますが、夜間でも活発に活動する変わり者のトカゲでもあります。


オキナワキノボリトカゲ
ヘリグロヒメトカゲ

 時間がないため宇江城岳での観察を切り上げて、島の南端に位置する集落の島尻に向かいました。途中の溜池でアマサギのコロニーを観察したり蝶々を観察したりで楽しい移動だったのですが、島の中央部は開発が進み、原生的な生態系は北部と南部に完全に分断されていることが実感できました。

アマサギ

 島尻では、集落に入る手前から渓流に延びる道路と渓流の下見に入りました。道路の両脇はススキが生い茂っていて、環境はあまり良くありませんでした。でも、少し歩く毎にカサコソと生きものの逃げ去る音が聞こえてきます。目を凝らして観察するとアオカナヘビです。アオカナヘビはスリムな体型と上品な色彩を持ったカナヘビでトカラ列島から沖縄群島に分布しています。生きもの便りで紹介したことがない爬虫類であり、友人からも採集を頼まれていたので、何度も撮影と採集を試みるのですが旨くいきません。日暮れが近づいたため、明日再挑戦する事にして、ホテルに向かいました。
 途中で亀甲形の模様のある畳岩で有名な奥武島に寄りました。海岸でくつろいだ後、砂浜に漂着している流木を何となくひっくり返してみました。するとどうでしょう。樹皮の間から複数のヤモリが這いだしてきました。ホオグロヤモリです。尾にトゲトゲ(突起環)があり、チッチッチッチッと鳴くことが特徴的なヤモリです。ホテルや民家の街灯下でよく見かける、一般的なヤモリです。日本では奄美大島以南に分布していますが、元々は東南アジアに広く分布する種で、輸入材や流木等の漂着物に紛れて日本に分布を広げた外来種です。今回の海岸の流木からの発見は、流木等による自然的な帰化の可能性が少なくないことを物語っている出来事でした。


ホオグロヤモリ三景
樹皮の間から這い出してきた
ホテルの壁で見つけた
自動販売機で見つけた


春の沖縄(久米島)生きもの紀行−2 に続く
   (写真:ヤマシナトカゲモドキ)
 
 
文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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