さくちゃんの生きもの便り(その13)
春の女神 ギフチョウ 1

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 暖かい日が続き、急速に春が訪れてきました。
 私の住む横浜でも、コブシやナノハナ等の春の花が満開になり、ソメイヨシノの花も開きはじめました。谷戸の田畑では、モンシロチョウが飛び、ヤマアカガエルのオタマジャクシが泳ぐ姿を見かけるようになりました。
 この時期になると、蝶屋(蝶の観察や採集を趣味にしている人達)は、落ち着きがなくなり、ある蝶々を求めて、本州各地の山地・丘陵地に分け入ります。その目的地と時期は、南から北へ、低地から高地へと移動し、桜前線を追いかけて移動する同一行動パターンを持っています。
 “ある蝶々”とはなんだと思いますか? そうギフチョウです。
 皆さんは、ギフチョウが飛ぶ姿を実際に見たことがありますか?
 記念切手のデザインに使われたこともありますし、春になるとテレビ等のメディアに登場することも沢山あるのでご存じの方が多いと思いますが、実際に見た事がある人は少ないのではないかなーと思います。実際は見ていても気付かなかったのかもしれません。
 今回の生きもの便りは、蝶屋や一般の人々をも含めて魅了し続け、春の女神と称されるギフチョウの話をしましょう。


●概要

 ギフチョウの仲間は、世界中で4種(ギフチョウ、オナガギフチョウ、ヒメギフチョウ、シナギフチョウ)が知られ、東アジアに限られて分布しています。日本にはその内のギフチョウとヒメギフチョウが生息しています。ギフチョウは学名をLuehdorfia japonica (ルードルフィア ジャポニカ)といい、日本の固有種です。最初に岐阜県でこの蝶が採集され、学界に紹介されたため「ギフチョウ」と名付けられました。
 ギフチョウの仲間は、アゲハチョウ科の中でも原始的な仲間で氷河期の遺存種とされています。
 雄と雌の区別点は、♂は胸や腹部に長い毛が多く生えており、♀には少ないこと、多くの♀は交尾によって♂の分泌物で腹部に受胎嚢を付けていることで判断できます。

左上♂ 右上♀ 下♂裏面
受胎嚢
ギフチョウ(広島産)
 
左上♂ 右上♀ 下♂裏面
受胎嚢
ヒメギフチョウ(岩手産)
   

●分布
 
ギフチョウは、本州の特産種で本州本島のみに生息しており、離島には分布していません。また、伊豆半島や能登半島等のほとんどの半島にも分布していません。日本海側での分布の北限は、秋田県の鳥海山、西限は山口県の萩市付近となっており、ほぼ連続して分布しています。一方、太平洋側の東限は東京都の多摩丘陵で、そこから西に分布しますが連続的でなく、孤立した産地が多くなります。南限は、紀伊半島の中央部です。
 一方、近縁種のヒメギフチョウは、北海道の中央部から東部、本州の東北〜中部地方に局部的に分布しています。分布の南限は山梨県の櫛形山付近、西限は岐阜県吉城郡です。関東地方では群馬県の赤城山麓に分布してます。
 一般的にギフチョウとヒメギフチョウは一部の混棲地を除いて棲み分けをしており、その境界線は、ルードルフィア線と呼ばれています。

ギフチョウ♀(広島産)
ギフチョウ♂(広島産)


春の女神ギフチョウ-2 に続く

文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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