Ikimono Dayori sono69
ソテツの新葉を求めさまようクロマダラソテツシジミ
クロマダラソテツシジミ(沖縄本島国頭村) |
クロマダラソテツシジミ(Chilades pandava pandava)という小さなシジミチョウの仲間のチョウがいます。
特別蝶々に興味を持っていない方には馴染みの薄いチョウなのですが、新聞やテレビで報道されましたのでご存知の方も多いと思います。
クロマダラソテツシジミは、南アジアから東南アジアの熱帯・亜熱帯に広く分布するシジミチョウ科の仲間です。
チョウの中では珍しくソテツを食草としています。
日本の南西に位置する台湾には分布していなかったのですが、1976年に始めて記録され、それ以降は生息を続けています。
日本では1992年に始めて沖縄本島で記録され、2001年には与那国島で記録されましたが、いずれも一時的な発生に止まりました。
しかし、2006年に八重山諸島の石垣島や西表島で確認された後は継続的に記録され、2007年には八重山諸島の北に位置する沖縄本島、奄美大島、種子島、九州本土などでも発生が確認されました。
また、同年の秋には意外にも兵庫県や大阪府においてもクロマダラソテツシジミの発生が確認されました。
2008年に入ると、近畿地方の全ての府県(京都・大阪・滋賀・兵庫・奈良・和歌山・三重)や愛知県、岡山県、広島県、香川県でも発見され、分布の拡がりを見せました。
私は、2008年・2009年に南西諸島(沖縄本島・徳之島)に行った折に多数のクロマダラソテツシジミを観察しましたが、その様子は、2008年の真夏の沖縄本島家族旅行に記述しました。
そのクロマダラソテツシジミが2009年8月19日、とうとう東京都品川区で発生が確認され、関東地方初記録と言うことで、新聞やテレビで報道されました。
その後、調査が進み、東京都の品川区・港区・大田区・世田谷区、千葉県の館山市・南房総市、神奈川県の逗子市・三浦市・横須賀市で生息が確認されるまでに至りました。
クロマダラソテツシジミは南西諸島でたくさん観察しているし、関東地方への進入はおそらく人為的な移入(造園等の植栽木として食草のソテツに付いて持ち込まれた、または放蝶された)だろうと思っていたので、わざわざ観察に行くつもりは無かったのですが、私が住む横浜のお膝元、三浦半島の三市(逗子市・三浦市・横須賀市)で見つかったとなれば、話は別です。
10月4日 早速、車を走らせドライブがてらクロマダラソテツシジミの生息状況の確認に行ってきました。
横浜横須賀道路に乗って馬掘海岸ICまで向かいます。料金所の横に新しく植栽されたソテツを見つけましたが、気付くのが遅く車を停車できなく、ここでの調査は断念。
一般道をゆっくり走行しながらソテツを見つけたら車を停めて生息を確認するという方法で調査を進めました。
ソテツは潮風害への耐性が高いため、海岸に隣接したホテルや博物館、公園などに比較的多く植栽されています。
最初に立ち寄ったホテルや博物館で、早くも多数の弱齢幼虫〜終齢幼虫と前蛹・蛹を確認しました。
その後も調査を続け、ソテツを見つけては車を停めて調べていたのですが、ほぼ全ての新芽や新葉の出ているソテツで、クロマダラソテツシジミの生息を確認しました。
改めてクロマダラソテツシジミの持つ移動・拡散能力の高さを再認識しました。
食害を受けたソテツ(沖縄本島国頭村)
食害を受けたソテツ(三浦半島 横須賀市)
終齢幼虫(三浦半島 横須賀市) |
新芽に産卵する♀と卵(沖縄本島国頭村) 終齢幼虫(三浦半島 横須賀市) |
終齢幼虫(三浦半島 横須賀市) | 前蛹(三浦半島 横須賀市) | 蛹(三浦半島 横須賀市) |
成虫♀(沖縄本島国頭村) |
成虫(沖縄本島本部町) | 成虫♂(沖縄本島南城市) | 成虫(三浦半島 三浦市) |
クロマダラソテツシジミは、熱帯・亜熱帯地域に生息するチョウです。関東地方で無事に越冬できる可能性は低いと思われます。
今年は、関東地方でさまよえる南からの珍客、クロマダラソテツシジミを観察できるチャンスの年と言えるでしょう。
海岸近くの公園や社寺等でソテツが植栽されていたら、クロマダラソテツシジミを捜してみたらいかがですか?
ソテツやソテツの近くの草花を飛び交う15mm程度の小さな青いチョウを見つけたら、それはクロマダラソテツシジミかもしれませんよ。
2009年10月8日 さくちゃんこと佐久間聡
文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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