その47 さまよえるアカボシゴマダラ−1
Ikimono Dayori sono47
さまよえるアカボシゴマダラ Page1

 皆さんは、アカボシゴマダラという蝶々を知っていますか?
 日本では奄美諸島(奄美大島・加計呂麻島・与路島・喜界島・徳之島)だけに生息するタテハチョウの仲間のため、馴染みの薄い蝶々です。
 アカボシゴマダラは、北海道から九州にかけて広く分布するゴマダラチョウに近縁なタテハチョウの仲間で、白と黒のまだら模様がよく似ていますが、後翅に赤い紋が並んでいるため容易に区別することが出来ます。
 そのアカボシゴマダラが、なぜか神奈川県を中心に定着し分布を広げているのです。
 そもそも関東地方でアカボシゴマダラが見つかったのは、埼玉県で1995年のことでした。当時も随分話題になったのですが、定着することはありませんでした。
 次に見つかったのは、神奈川県藤沢市で1998年のことです。その後、鎌倉市や逗子市など神奈川県の南部で見られるようになり、完全に定着し今日に至っています。
 神奈川県に定着しているアカボシゴマダラは、奄美諸島に生息するものとは異なり大陸の亜種で、人為的に持ち込まれたものの様です。
 神奈川県では、ここ数年の間に、南方系のナガサキアゲハ、ムラサキツバメ、ツマグロヒョウモン、クロコノマチョウが、比較的普通に観察することが出来るようになり、地球温暖化やヒートアイランド現象を蝶々の観察でも実感するようになってきました。
 故郷の広島県宮島でも、ミカドアゲハ、イシガケチョウ、サツマニシキ(蛾)が比較的普通に観察できるようになったため、全国的な傾向かも知れません。
 横浜でもイシガキチョウやサツマニシキが見られるようになるのかもしれないなー。

 話がそれてしまいましたが、2005年の10月中旬に、妻と横浜市金沢区にある市民の森にアカボシゴマダラの観察と採集に出かけました。
 食樹のエノキを見付けては、葉の表に付いている幼虫を探します。
 横浜市にはエノキを植樹とし、よく似た幼虫のゴマダラチョウが同所的に生息しているのですが、幼虫を探すうちにあることに気付きました。
 それは、ゴマダラチョウは雑木林の林縁に生育する比較的大きい成木に幼虫が付いているのですが、アカボシゴマダラはそのような環境では見つからず、広場や道路脇の日当たりがよいオープンな環境に生育する0.5mから2.0mぐらいのエノキの幼木を好んでいるということです。
エノキの幼木で幼虫を探す妻(2005年10月)
エノキの幼木で幼虫を探す妻(2005年10月)

 その日は、若齢幼虫から中齢幼虫を多数観察し、写真撮影後に中齢幼虫を数匹採集しました。
 10月下旬と年を越した2006年4月上旬に、横浜の主要な観光地の1つである、山手地区にアカボシゴマダラの調査に出かけました。
 するとどうでしょう。民家の生け垣、路傍、みなとの見えるが丘公園、外人墓地・・・どの様な場所でも、樹高0.5mから2.0mぐらいのエノキの幼木があれば、どこにでも幼虫が見つかるではないですか。
 こんなところにまで、分布を広げているの!!
 御主、なかなかしたたかやのー。
 山手地区は自宅からも近いので、ひょっとして我が家周辺にも、お忍びで立ち寄られているかも知れません。
 野毛山動物公園、かもん山公園を探してみることにします。
 やはり、たくさん見付けることが出来ました。
 ある情報では、東京や千葉まで分布を広げているようです。
 アカボシゴマダラが定着し、急速に分布を広げているのは、外来種で天敵が少ないこと、ゴマダラチョウと棲み分けており、緑が多い住宅地や都市公園のエノキが好適な生息環境となっているからなのかも知れません。
 都市公園は、街区公園が誘致距離250m(概ね500m間隔)、近隣公園が誘致距離500m(概ね1.0km間隔)、地区公園が誘致距離1.0km(概ね2.0km間隔)と言うように、都市計画である程度一定間隔で整備されているため、アカボシゴマダラが分布を広げるのに好都合です。
 アカボシゴマダラは、関東平野一帯に分布を広げることは間違いないと思われますが、箱根の関所を破り、静岡以西に分布を広げることができるのか興味があります。
 アカボシゴマダラとゴマダラチョウの幼虫から成虫までの写真を載せておきますので、みなさんも、住宅地の生垣や公園・緑地などでアカボシゴマダラを捜してみて下さい。神奈川県や東京都にお住まいの方は、簡単に見付けることができるかもしれませんよ。


文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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