さくちゃんの生きもの便り(その7)
タテハチョウの王様、日本の国蝶オオムラサキ
 

 梅雨明け間近かで暑い日が続いています。7月を過ぎると夏の昆虫が一斉に姿を現します。雑木林が賑わう季節の到来です。クヌギやコナラの樹冠にはゼフィルスと呼ばれる金属光沢を持つミドリシジミの仲間が飛び交い、枝や幹には樹液を求めてスズメバチやカナブン達が訪れます。夜になるとクワガタムシやカブトムシ等の大型甲虫やガの仲間で賑わいます。悲しいことに都会では、デパートやペットショップ等でこれらの昆虫が売られはじめる事がこの時期の風物詩になっています。

 皆さんは、日本の国蝶が、何か知っていますか? 切手のデザインやテレビ等のメディアでご存じの方が多いと思います。タテハチョウの仲間のオオムラサキです。では、オオムラサキを実際に見た事はありますか?多分見たことのある人は少ないのではないでしょうか。実際は見ていても気付かなかったのかもしれません。 今年の夏は是非オオムラサキを見付けて下さい。では、オオムラサキの話をしましょう。


■分布
 オオムラサキは、国蝶ですが日本だけに分布しているのではなく、中国大陸や朝鮮半島、台湾にも分布しています。日本では北海道(南西部)、本州、四国、九州に分布していますが、山梨県や長野県等の甲信越地域に多く分布しているように感じます。私がいつもオオムラサキを見に行く場所は、山梨県の韮崎から長坂間の釜無川沿いです。ここでは1本のクヌギに沢山のオオムラサキが吸汁している所を見ることができます。


クヌギ葉上のオオムラサキ♂
※これらの写真は、クリックすると拡大写真が表示されます。

■生態
 
成虫は年1回、6月中旬から発生し、7月上旬に最盛期を迎えます。韮崎や長坂辺りでは7月10日前後、それより標高が高くなると20日前後が最盛期となりますが、8月に入っても見ることができます。


吸汁するオオムラサキ

  雌は7月下旬から産卵をはじめ、エノキの小枝に100個位づつまとめて卵を産み付けます。幼虫は、孵化後エノキの葉を食べて成長し、4齢幼虫でエノキの木の下にある落ち葉にくっついて越冬します。越冬した幼虫はエノキの新芽の芽吹きに合わせて幹を登り、新芽や新葉を食べて成長し、6齢を経てエノキの葉の裏で蛹化します。
  成虫は、クヌギやコナラの樹液に多く集まる他、スモモ等の果実や獣糞等にも集まってきます。


■オオムラサキを見付けるこつ  
  • やはり分布密度の高い所へ行くことです。関東地方にお住まいの方なら、前記した山梨県の韮崎から長坂間の釜無川沿いに行くことを進めます。そこでオオムラサキがどの様な環境に生息しているのかを体感して、色々な場所で探して下さい。

  • オオムラサキの食樹はエノキです。エノキは主に川沿いに自生している樹木なので、川に近い比較的規模の大きな雑木林を見付けることです。

  • オオムラサキの成虫は果実や獣糞等にも集まりますが、でも何と言っても大きなクヌギで樹液の出ている台木を見付けることです。私がオオムラサキを見るために山梨県の釜無川沿いに行くのは、この様なクヌギの台木が沢山あるからです。

  • 出来れば7月中の気温が高く、天気の良い日に出かけて下さい。この様な日には、樹液に多くのオオムラサキが集まっています。

  • オオムラサキの翅の裏は、雄も雌もベージュ系の地味な色をしています。すぐにオオムラサキと気付かない人もいると思いますが、大きな白っぽい蝶々が樹冠を滑空していたり、幹にとまっていたらオオムラサキだと思って慎重に近づいて下さい(樹液を吸っていたら少々驚かしても逃げないけれど)

クヌギの樹液を吸汁するオオムラサキ♀とアオカナブン
クヌギの樹液を吸汁するオオムラサキ♂
 
オオムラサキ♂  
クヌギの台木
 
オオムラサキ 左♂ 右♀ 下♂裏  
オオムラサキの食樹 エノキ

 まだ、オオムラサキを見たことがない人で、今年こそはと思っている人は、是非がんばって下さい。オオムラサキが生息する雑木林にはその他にも沢山の昆虫が見られます。きっとすばらしい生きもの達とのふれあい体験が出来ると思います。
  さあ、ポケット図鑑と捕虫網を片手に雑木林に行こう!!    

1999年7月10日

文と写真:さくちゃんこと佐久間聡
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