さくちゃんの生きもの便り(その6)
さくちゃんちの沖縄本島山原(ヤンバル)いきもの紀行

 
  6月10日から4日間、沖縄本島に行って来ました。今回は、その時の話をすることにしましょう。
 
プロフィールにも書いたように、南西諸島は学生時代から蝶々の採集で度々訪れているのですが、ここ数年は両生爬虫類の調査や観察で毎年恒例となっています。でも、今年は何時もと違って、家族同伴での沖縄入りです。それは、もちろん家族サービスもありますが、妻や子供達に私が学生時代から愛し通い続けている、沖縄本島北部に広がる丘陵地帯、山原(ヤンバル)の豊かで貴重な自然を体感してもらいたかったからです。妻も2人の子供達も沖縄に行くのは初めてなのです。

6月10日 
 早朝に出発して、9時過ぎに予定通り那覇に到着、レンタカーで牧志公設市場に直行です。
  妻も私も市場が大好きです。海外(僻地が多いが)に行っても必ず1度は市場に出かけて、色々な食材や香辛料、果物等を見たり購入したりして楽しみます。
  牧志公設市場には、南国の色鮮やかな魚、沢山の種類のエビやカニ、ブタの顔の皮や足、ウミヘビの燻製、色々な野菜や果物等々、刺激的な食材が沢山売っていて、東南アジアの島々の市場を思い出させます。妻曰く「ここは匂いの弱い東南アジアの市場といった所ねー・・」。なるほどー。
  市場で総菜を買い、市場の2階で食事をすませて、国頭村の奥間にあるリゾートホテルに向かいました。海やプールで泳いで少し休憩した後、まだ日が高いので、私が何時も入っている林道に家族を案内することにしました。


 林道に入って車のスピードを時速10km位に落とし、動植物の説明や自然環境の説明をしながら進みます。まるで自然解説員「インタープリター」の様です。日没が近くなってきたので沖縄本島固有の陸亀「リュウキュウヤマガメ」を毎年見つけることができるポイントで引返すことにします。車を停めて家族に「この様な環境にヤマガメが生息していて、この道路の側溝(U字溝)にときどき落ちて

いるんだよ」と言って側溝を覗き込んだら・・・何かが動いています。リュウキュウヤマガメです。それも2匹。子供達は大喜びです。リュウキュウヤマガメは国指定の天然記念物だから、本当は触ったり捕まえたりしてはいけないのですが、そのままにしておくと死んでしまうため、捕まえてU字溝の無い安全な環境へ放してやりました。
  妻曰く「まるで浦島太郎ねーーー」。んーーん・・・竜宮城に招待されるといいのだけれども。


リュウキュウヤマガメ
※これらの写真は、クリックすると拡大写真が表示されます。

6月11日
 今日の予定は、午前中は家族で昆虫採集、午後は家族でプールサイドとビーチでのんびり過ごして、夜は一人で両生爬虫類の観察です。

 朝食を済ませて一路ヤンバルの森へ。林道に入って妻と運転を代わり、私と子供達は捕虫網を持って歩きます。最初に見つけたのが木の葉に擬態していることで有名なコノハチョウです。でもこの蝶は沖縄県指定の天然記念物なので採集してはいけません。子供達は、あちこちと走り回って次々と蝶々を採集してきます。随分採集が上手くなったなーと感心しました。私の所に持ってくる度に、その蝶々の説明をしてやります。「この蝶はツマムラサキマダラといって、最近沖縄に住み着いた蝶々だよ。光に当てると紫に光るでしょ」「この蝶はウラナミジャノメみたいだけどリュウキュウウラナミジャノメといって、沖縄にしかいない蝶々だよ」等々。蝶々以外では、渓流沿いをカラスヤンマが滑空しています。ヒラタクワガタも見つけました。シリケンイモリリュウキュウキノボリトカゲも見つけました。木の枝に大きな巣を張っているのはオオジョロウグモの雌です。小さな雄もいます。このクモの雌は、足を含めると子供の掌より大きくなる立派なクモです。


コノハチョウ
 

ツマムラサキマダラ

リュウキュウウラナミジャノメ
カラスヤンマとヒラタクワガタ
カラスヤンマとヒラタクワガタを持つ子供達
     
シリケンイモリ
リュウキュウキノボリトカゲ
オオジョロウグモ

 家族全員で楽しい時間を過ごしてホテルに帰り、午後はプールとビーチでのんびり過ごし、日没後、いよいよ一人で両生爬虫類の調査と観察の始まりです。

  目的地の林道に入って、車の速度を時速4km程度に落としてゆっくりゆっくり進みます。まず最初に出会ったのが全長が2m近くあるアカマタというヘビです。赤と黒の縞模様が綺麗な無毒のヘビですがとても気が荒いヘビです。


アカマタ

 次に出会ったのがなんとクロイワトカゲモドキです。原始的なヤモリの仲間で沖縄諸島の固有種、沖縄県の天然記念物に指定されています。
  沢へ入る歩道の手前に車を停め、長靴を履き、ハンドライト、ヘッドライト、カメラをセットし、ザックを背負って目的の地の一つである沢の中に入っていきます。水の中では沢山のテナガエビの目がオレンジ色に光って見えます。モクズガニの姿も見えます。最初に迎えてくれたのは、小さなカエル達、リュウキュウカジカガエルとそれを狙っているヒメハブです。ヒメハブはハブと違って動きも鈍く、小さく、大人しい毒ヘビです。


クロイワトカゲモドキ


ヒメハブvsリュウキュウカジカガエル
ヒメハブがどこにいるかわかりますか?
ヒメハブ
 
リュウキュウカジカガエル

 続いてハナサキガエル、ナミエガエル、ホルストガエルと沖縄諸島固有の山地渓流系のカエルのオンパレードです。繁殖期は過ぎていますが、日本で一番綺麗なカエルといわれているイシカワガエルも鳴いています。ナミエ、ホルスト、イシカワの3種のカエルは、10cmを越える立派なカエル達で、沖縄県の天然記念物に指定されています。特にイシカワガエルは、ダム開発等で生息数が少なくなっていて、一夜でこの3種が見れたのはとてもラッキーでした。


ハナサキガエル
ナミエガエル
ホルストガエル
イシカワガエル
     

 イシカワガエルの鳴き声を頼りに沢を詰めて行きます。ライトの光とそれにより強調される闇の恐怖。見たことのない動物達やその生態を垣間見たい好奇心。色々な思いが錯綜しながら一歩一歩慎重に進んでいきます。やっとライトの光の中にイシカワガエルの姿を捕らえました。カメラを構えて近づきます。ハンドライトを置いてカメラを構えた瞬間、イシカワガエルは少し跳ねて草むらに入ってしまいました。いくら探しても見つかりません。あの派手な色彩は、草むらや苔蒸した岩の上では保護色になっているのです。
  この沢はあきらめて次のポイントに移動です。次のポイントは、林道と渓流が併走している所です。

 この沢で、カエルやヘビの写真を撮りながら沢を歩いていたときです。ふと見た木に、光るものが付いています。クロイワボタルです。娘が理科の授業でホタルの勉強をしているので1匹採集して帰ることにしました。足場の良い所でライトを消しました。するとどうでしょう。沢山のホタルが飛び交っています。空は都会では見ることのできない満点の星空です。明日の夜は、妻や子供達にもこの光景を見せてやろうと心に誓ってこの沢を後にしました。

クロイワボタル

  その後入った別の場所で、いきなり5m位前方の草むらからリュウキュウイノシシが飛び出してきて、腰が抜けるほど驚かされました。完全に意気消沈。これで今日の調査は終わりです。時計を見ると午前2時を回っていました。


6月12日 
  天気予報が今日も外れて朝から強い日差しの晴天です。初日に助けてやったリュウキュウヤマガメの御利益かもしれません。今日は、午前中は家族でプールサイドとビーチでのんびり過ごし、午後は子供達は夜のホタル観察に備えて昼寝、私は昼間に活動するトカゲを観察するためにヤンバルの森へ出かけました。
 林道に入っていきなり出会ったのが、ヤンバルクイナです。早朝や夕方に林道や渓流に出てきているところは見たことがありますが、真っ昼間に出会ったのは初めてです。何時もの様に車をゆっくり走らせながら進みます。途中側溝に落ちているヤマガメ4匹を救ってやりながら、目的地の原生林内の広場につきました。

 目的は、日本で一番美しいトカゲといわれるバーバートカゲの観察と採集です。昨日も子供達が見つけてくれたのですが、動きが早くてなかなか捕まえられませんでした。今日が最後のチャンスです。広場に着いて早速1匹見つけましたが、すぐに林の中に入ってしまいます。なればと、林縁を歩いて広場の方に誘い出す作戦に切り替えて、まんまと1匹採集しました。何と美しいトカゲでしょうか。ニホントカゲにも似てますが尾の青の濃さ等が違います。リュウキュウキノボリトカゲも1匹採集しました。


ハーバートカゲ

 さて、いよいよ最後の夜です。昨日ホタルを持って帰ったのがよかったのか、今夜は家族全員でホタル観察です。途中で夕食を買い込んで、通い慣れた真っ暗な林道をゆっくりゆっくり進みます。車のヘッドライトの光の中にヤモリやカエル達が映し出されます。その度に子供達が叫びます。小枝がヘビのように見えます。実際にヒメハブも見つけました。もう車の中は大興奮状態です。子供達は、昼間に活動する動物と夜間に活動する動物の違いを実感しているようです。
  クロイワトカゲモドキも現れました。お腹が大きいからきっと雌です。これには私が興奮して、カメラを持って飛び出します。子供も後に続きます。腹這いになってシャッターを切ります。お腹の卵が透けて見えます。2回シャッターを切ったところでトカゲモドキは草むらに逃げ込んでしまいました。
  林道と渓流が併走するポイントで、車のライトを消してあたりを見回します。いました。昨日よりも沢山飛んでいるようです。10匹程度採集し、その後は観察です。雄は強い光を出しながら飛び回っています。1匹が光り出すと同調して次々と光だします。雌はじめじめした崖や草の根元で弱い光を放っています。
  妻も子供達も野生のホタルを見るのが初めてなので感激しています。
  一段落して、全てのライトを消すと真っ暗闇です。まわりはヤンバルの重厚な森、空は満天の星空です。ホタルが飛び交っています。渓流のせせらぎとカエル達の鳴き声が聞こえます。何とすばらしい幻想的な空間でしょう。
  子供達にとっては闇への恐怖が強かったようですが、我々家族が共有したこの空間での一時は、助けてやったヤマガメ達が招待してくれた、竜宮城だったのかもしれません。

6月13日
  今日は沖縄最後の日です。朝プールで泳いだ後、あちこち寄りながら牧志公設市場で買い物をし、6時前の飛行機で帰路につきました。着陸間近の暗い機内で、娘がプラケースに入れて持っていたホタル達が光り出しました。まわりの人達が興味深く見ていました。みんな沖縄にホタルが生息していることを知らないようです。後日このホタルは、教材として娘が学校に持っていきました。

  この生きもの便りを読んで頂いている方の中にも、沖縄に行かれたり行こうとされている方は沢山いらっしゃると思います。沖縄でのリゾートライフや文化・歴史にふれることは、もちろん素敵な旅だと思います。でも、もし時間が有れば世界的に見ても貴重で豊かな自然の残るヤンバルの森を覗いて見ては如何でしょうか。きっと素晴らしい感動が得られると思います。

 この紀行文では書きませんでしたが、ここ沖縄でも多くの野生動物達が開発により住処をなくしています。林道や一般道では多くの野生動物がひかれたり、側溝でひからびて死んでいます。海には依然として赤土が流出し、珊瑚が死滅しています。この素晴らしく貴重なヤンバルの森が、動物達の住処として、また人間に知的好奇心や感動、また、自然への謙虚な気持ちを呼び起こしてくれる森として、次世代に引き継がれることを願って止みません。

 では、沖縄本島生きもの紀行はこれで終わります。次回は日本のタテハチョウの王様、国蝶オオムラサキの話しをします。お楽しみに。


1999年6月26日

文と写真:佐久間 聡(さくま さとし)
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